「友情結婚」とLGBTQはなぜ相性がいいのか
恋愛感情や性的関係を前提にしない結婚、というものがある。これを友情結婚と呼ぶ。信頼と尊重を土台にして、生活のパートナーになる関係のことだ。言葉だけ聞くと不思議に思えるかもしれないが、仕組みとしてはわりと筋が通っている。恋愛をベースにしない代わりに、何をどう分担するかを最初に言葉にして決めていく。詳しい定義やメリット・デメリットは「友情結婚とは?メリット・デメリット・向いている人を徹底解説」のほうにまとめてある。
で、なぜこれをLGBTQ当事者が選ぶのか。理屈で考えると答えはシンプルで、「恋愛・性愛を相手に求めない」という条件が、もともと自分の生き方と矛盾しない人が一定数いるからだ。アセクシャル(他者に性的に惹かれにくい人)やゲイの人にとって、恋愛結婚はそもそも前提が噛み合わない。そこに「恋愛抜きで、生活と社会的な安定を共有する相手」という選択肢が現れると、急に話が現実的になる。自分らしさを手放さずに済むうえ、暮らしの土台も手に入る、という発想だ。
友情結婚を選ぶLGBTQ当事者の実態
友情結婚専門の結婚相談所のデータを見ると、入会者の内訳には偏りがある。男性側はおよそ8割がゲイ、女性側はおよそ9割がアセクシャルまたはノンセクシャル(恋愛感情はあっても性的関係を求めない人)だという。数字の出どころが相談所のデータなので母集団は限られるが、傾向としては読み取れる。
この偏りから何が言えるか。ゲイの男性とアセクシャルの女性がマッチングして結婚に至るケースが、決して例外ではないということだ。片方は恋愛・性愛の対象が同性で、もう片方はそもそも性愛を強く求めない。だとすると、お互いに「相手に恋愛を期待しない」という前提が最初から一致している。恋愛結婚だと避けがたい「温度差」が、構造的に生まれにくい。対等なパートナーシップを組みやすい、という当事者の声には、こういう背景がある。
法務省も「性的マイノリティに関する偏見や差別をなくしましょう」というページで、職場や家庭での無理解が当事者を追い詰める現実に触れている。友情結婚という選択は、そうした圧力のなかで自分の暮らしをどう守るか、という問いへの一つの答えでもある。
LGBTQ当事者が友情結婚を選ぶ理由を分解する
選ぶ理由は人によってまったく違う。ただ、相談の現場でよく出てくるものを並べてみると、いくつかの型に分けられる。順番に見ていく。
社会的・職業的な事情
職場でカミングアウトしていない人や、地方で周囲の目が気になる人にとって、「結婚している」という事実は社会的な盾になる。独身のままだと詮索される、結婚しないと出世に響く。そういう空気がいまだに残っている職場はある。理不尽だが、現実として存在する以上、対処法を持っておくほうが楽だ。仕事との両立は「友情結婚とキャリア」でも掘り下げている。
家族からの期待やプレッシャー
孫の顔が見たい、いつ結婚するの。親や親戚からのこの手の問いかけは、当事者にとってかなりの負荷になる。友情結婚は、家族との関係を壊さずに自分の生き方を守る道のひとつだ。本当はカミングアウトできる環境が一番いいに決まっている。ただ、誰もがそうできるわけではない。理想論だけで割り切れないところに、この選択肢の居場所がある。
法的な保護や社会保障へのアクセス
配偶者控除、健康保険の扶養、相続権。法律婚で得られる保護は意外と幅広い。一方で、同性カップル向けの制度も整いつつある。たとえば東京都パートナーシップ宣誓制度は、宣誓したカップルに受理証明書を交付し、都営住宅の入居申込などで使えるようにしている。都の発表では2025年5月末時点で2,165組が利用しているという。ただ、この種の制度は法律婚と同じ効力を持つわけではなく、相続や扶養まではカバーしない。そこが現状の限界だ。
異性間の友情結婚であれば法律婚そのものができるので、これらの保護を現行法の枠内で受けられる。制度の谷間を埋める手段として友情結婚が選ばれる、というのは理屈の上でも納得がいく。
子どもを持ちたいという希望
子どもを持ちたいと考える当事者は当然いる。実際、友情結婚したカップルがシリンジ法で子どもを授かり、共同で育てている例も報告されている。血のつながった子どもがほしいという希望と、恋愛関係のないパートナーシップは、論理的に矛盾しない。両立できる。子どもの話の進め方は「友情結婚で「子ども」をどう考える?」にまとめてある。
信頼できるパートナーとの安定した関係
「恋愛はいらないけど、一緒に生きていく人はほしい」
アセクシャルやアロマンティック(他者に恋愛感情を抱きにくい人)からよく聞く言葉だ。アセクシャルをもっと知りたいなら「アセクシャルと友情結婚」が参考になる。老後の孤独、急な病気やケガ、日常のちょっとした支え合い。そういうものを分かち合える相手を求めて友情結婚を選ぶ人は、地味に増えている。
友情結婚で大切にしたいこと
お互いのセクシュアリティを尊重する
友情結婚の土台は相互理解と尊重に尽きる。パートナーがゲイなのか、アセクシャルなのか、バイセクシャル(同性にも異性にも惹かれうる人)なのか。そこをオープンに話して、わかり合っておく。「聞かない・触れない」で蓋をするのではなく、「知った上で尊重する」。この差は大きい。前者は無関心と紙一重だが、後者は信頼につながる。
最初から条件を明確にする
友情結婚には、恋愛結婚ではあまり問われない確認事項がある。同居か別居か、子どもを持つか、外に恋人を作っていいか、家事と生活費の分担、将来の財産分与。このあたりを気まずさで後回しにすると、まず後でこじれる。最初に話し合って、必要なら公正証書にしておく。面倒に見えて、実は一番もめないやり方だ。距離感やルールの決め方は「友情結婚の距離感・ルール」にも書いてある。
サポートネットワークを持つ
同じ経験をしている人とつながると、孤立しにくくなる。友情結婚をした先輩カップルの話を聞いたり、SNSで情報交換したり。同じ境遇の人が集まる場があると、相談相手を見つけやすい。実際に友達探し目的でMITRAを始めている人もいる。友情結婚した方のエピソードは「友情結婚のリアルな体験談」でも紹介している。
ひとりで抱え込みそうなときは、公的な窓口を頼る手もある。法務省の人権擁護機関は、全国の法務局で性的指向や性自認に関する相談を電話やインターネットで受け付けている。サービスを使う前に、自分の状況を整理する場として利用するのもいい。なお、友情結婚アプリのMITRAも運営会社・プライバシーポリシー・問い合わせ窓口を明示して運営している。マッチングアプリを使うときは、運営元と個人情報の扱いがはっきりしているかをまず確認しておくと安心だ。
マッチング初期にLGBTQ当事者同士で話し合いたい10項目
LGBTQ当事者同士の友情結婚では、一般的な婚活以上に詰めておきたいことがある。マッチングから交際初期のうちに、次の10項目について率直に話せると、後の食い違いをかなり減らせる。
- お互いのセクシュアリティの詳細と、相手にどこまで伝えておきたいか
- カミングアウトの範囲(職場・親族・友人)
- 婚姻届の提出に対するスタンス(法律婚を求めるか、事実婚でよいか)
- 子どもを持つかどうか、持つ場合の手段(シリンジ法、里親、特別養子など)
- 住まいは同居か別居か、子育て期の体制
- 外部パートナー(恋愛・性愛関係)を持つかどうかとルール
- 金銭の分担方法と、大きな出費の決定プロセス
- 法的保護(遺言・公正証書・死後事務委任契約など)の準備
- 実家・親族との関わり方
- 関係を解消する場合の手続きと条件
この10項目に、子どもを希望する場合の年齢の話を必ず重ねておきたい。恋愛のない関係でも、妊娠・出産には体の事情がついてまわる。特に女性側の妊娠出産には時間的な制約があり、男性側も親世代との時間軸が絡む。アプリ登録からマッチング、対面、交際、入籍、妊活開始まで進めると、現実的には最短でも1〜2年はかかる。子どもを望むなら、受け身でいる時間のコストは年齢が上がるほど大きくなる。ほしいと思うなら早めに動き出すほうが選択肢を残せる。もちろん、子どもを持たない暮らしも対等に尊重される前提での話だ。
これらを事前に言葉にしておくと、後々の法的トラブルや感情のもつれを予防できる。気まずさを理由に先送りすると、たいてい問題は後で大きくなって戻ってくる。
よくある質問(FAQ)
Q. 友情結婚は離婚リスクが高いって本当?
一概には言えない。ただ、恋愛結婚と違って「好き」という緩衝材がない分、話し合いの質がそのまま関係の質に出る。逆に言えば、対話さえ機能していれば崩れにくい。離婚率と長続きのコツは「友情結婚の離婚率」で詳しく扱っている。
Q. お互いの外部恋愛は認めるべき?
ケースバイケース、としか言えない。「認める/認めない」の二択で考えるより、「どのラインまでなら関係が壊れないか」を具体的に擦り合わせるほうが実用的だ。一番のリスクは、外部恋愛そのものではなく、ルールが曖昧なまま放置されること。そこを言葉にしておけば、たいていの揉め事は避けられる。
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