ゲイコミュニティの中で「既婚者」でいるということ
ゲイとしてのアイデンティティを持ちながら、女性と結婚している。そういう立場の人は、実はそれほど珍しくありません。家族の期待、職場の事情、地方での暮らし。理由はさまざまですが、自分のセクシュアリティとは異なる形の結婚を選んだ(あるいは選ばざるを得なかった)ゲイ男性は一定数います。
けれど、結婚したことでゲイコミュニティとの距離が広がってしまった、という話をよく耳にします。
タカシさん(仮名・40代)は、20代後半で女性と結婚しました。実家の強い希望と、職場で独身であることへの視線がきっかけだったと振り返ります。
「結婚してからゲイバーに行きづらくなったんですよ。独身のゲイの友人に会っても、なんとなく話が噛み合わなくなっていく感じがして。かといってストレートの既婚者の集まりでは本当の自分を出せない。どっちにも入りきれないまま、気づいたら一人で過ごす時間ばかり増えていました」 (※プライバシー保護のため、一部内容を変更しています)
「既婚」がなぜ壁になるのか
ゲイコミュニティは、長い間さまざまな困難を乗り越えてきた歴史を持っています。カミングアウトや差別との闘いの中で育まれた連帯感は、当事者にとって大きな支えです。
そうしたコミュニティにも、暗黙の空気は存在します。「カミングアウトして自分らしく生きる」ことが一つの到達点とされる場で、「女性と結婚しています」と言うのは、かなり勇気がいること。
「裏切り者みたいに思われるんじゃないか」「自分のセクシュアリティを偽っていると見られるんじゃないか」。そんな不安から、ゲイコミュニティとの接点を自ら断ってしまう既婚ゲイの方は少なくありません。
パートナーシップの形が周囲と異なることも大きい。同性パートナーとの恋愛関係について語り合う場で、「妻と生活しています」という話をするのは場違いに感じてしまう。結果として、ゲイの世界にもストレートの世界にも完全には溶け込めない、二重の孤立を経験する人がいます。
LGBTQ+当事者のための友情結婚ガイドでも触れていますが、ゲイ男性が女性とパートナーシップを組むケースは決して珍しくない。友情結婚専門の結婚相談所のデータによると、男性入会者の約8割がゲイであるという数字もあります。
孤立しているのは自分だけじゃない
孤立感を抱えていると、世界中で自分だけがこんな状況にいるように思えることがあります。でも実際には、同じ経験をしている人は想像以上に多い。
ユウキさん(仮名・30代)は、友情結婚をした後にSNSで同じ境遇の人を探し始めました。
「最初はTwitterで"既婚ゲイ"と検索してみたんです。そしたら意外と同じ状況の人がいて、驚きました。独身のゲイ友達には話しにくいことでも、既婚同士なら分かり合える。たとえば妻との生活の中でセクシュアリティをどう折り合いつけているかとか、親に本当のことを話すべきかとか。そういう話ができる相手が見つかっただけで、気持ちがだいぶ楽になりました」 (※プライバシー保護のため、一部内容を変更しています)
既婚ゲイの悩みは、独身のゲイとも、ストレートの既婚者とも違います。だからこそ、同じ立場の人とつながることに大きな意味がある。
友達を見つけるための方法
SNSで同じ境遇の人とつながる
TwitterやInstagramで「#既婚ゲイ」などのハッシュタグを検索すると、同じ立場の人が見つかることがあります。匿名で始められるので、カミングアウトの範囲を気にせず交流できるのが利点です。最初から個人が特定されるような情報は出さず、趣味や日常の話題から少しずつ距離を縮めていくのがいい。
オンラインコミュニティの活用法でも書いていますが、顔を出さなくても参加できる場があるだけで、心の支えになります。
友達探しとしてのマッチングアプリ
ゲイ向けのマッチングアプリは色々ありますが、多くは恋愛や出会いが前提になっていて、純粋に友達を探したいだけの人には合わないことがあります。既婚であればなおさら、恋愛目的の場には入りづらい。
そういうときに選択肢になるのが、友情結婚マッチングアプリのMITRA(ミトラ)です。恋愛を前提としないパートナーシップを求める人が集まっている場。友情結婚を前提としたアプリなので、利用者は全員その形を理解している人たち。「結婚している」ことがマイナスにならない空気があります。本来はパートナー探しのためのアプリですが、同じ境遇の友達と出会う場としても使われています。
「恋愛目的じゃないアプリだから、変に構えずに話ができた。同じように既婚でゲイの人とマッチして、今では月に一度くらい会ってお茶するような関係になりました」。そんな声も聞こえてきます。
出会いの場の選び方については「友情結婚アプリの選び方」も参考にしてみてください。
リアルの場に足を運んでみる
都市部を中心に、LGBTQのイベントやコミュニティスペースは増えています。プライドイベントのような大きな催しだけでなく、少人数の交流会や読書会のようなものもある。既婚であることを理由に参加をためらう必要はまったくありません。
ただ、いきなり「既婚ゲイです」と自己紹介する必要もない。まずは自分のペースで、居心地のいい場所を探すところから始めてみてください。
疎外感との付き合い方
友達ができたとしても、疎外感がきれいに消えるわけではないかもしれません。自分のセクシュアリティと日々の生活の形が一致していないという感覚は、周囲の理解だけでは埋めきれない部分があります。
それでも、疎外感を抱えている自分を否定しなくていい。「既婚だからゲイとして認められない」「既婚ゲイは中途半端だ」、そういう声が自分の内側から聞こえてくることがあっても、それは事実じゃない。生き方に正解はないし、パートナーシップの形に正解もない。
パートナーとの関係の中で孤独を感じている方は、「友情結婚でも孤独を感じるとき」の記事も読んでみてください。友情結婚であっても恋愛結婚であっても、パートナーシップの中で寂しさを覚えることは自然なことだと書いています。
セクシュアリティに関する悩みがつらくなったときは、よりそいホットライン(0120-279-338)に相談できます。24時間無料で、セクシュアルマイノリティ専門の相談員につながる回線があります。
ひとりで抱え込まなくていい
既婚ゲイとしての孤独は、誰かに話すだけで軽くなることがあります。同じ経験をしている人とつながること、自分の気持ちを言葉にしてみること。小さなことから試してみてください。
完璧な居場所なんて、たぶん誰にもない。それでも「ここなら少し本音を出せるかも」と思える場所がひとつあるだけで、毎日の過ごし方はけっこう変わる。



