「いつ結婚するの?」「いい人いないの?」。盆と正月のたびにこれを食らう人は、たぶん自分で思っているより多い。親戚の集まり、会社の飲み会、ひさしぶりの同窓会。独身でいるだけで、なんとなく責められている空気になる。
で、本人は結婚したくないわけでもなかったりする。ただ恋愛結婚がどうもしっくりこない。この「したくないわけじゃないけど、その形は違う」というズレを、周りはなかなか汲んでくれない。
プレッシャーをかけてくる側に、たいてい悪気はない
これが厄介なところで、「結婚してこそ一人前」と思っている親世代は、だいたい善意で言っている。籍を入れて子どもを育てるのが幸せだと信じてきた世代だから、子どもにも同じ道を勧める。愛情ではある。そこは否定しなくていい。
ただ、その道が誰にでも通れるわけじゃない。アセクシャルの人やゲイ・レズビアンの当事者にとっては、恋愛結婚は入口からハードルが高いこともある。法務省も性的指向や性自認への理解を広げようと呼びかけてはいるが、正月の食卓のアップデートは、それより何周か遅れている。
数字を一つ置いておく。国立社会保障・人口問題研究所の人口統計資料集によると、50歳時点で一度も結婚していない人は2020年で男性が約28%、女性が約18%。1980年は男女とも数%だったから、独身はもう珍しくも何ともない。食卓で小さくなる理由は、統計の上ではない。
MITRAに登録しているKさん(30代・女性、本人が特定されないよう細部は変えている)は、母親に悪気なく「孫の顔が見たい」と言われ続けて、帰省のたびに胃が痛くなっていたという。本人はアセクシャルで、恋愛結婚はどうしても考えられない。それでも言い返す言葉が出てこない。珍しい悩みではないと思う。
職場の「既婚のほうが安心」も、地味に効く
家のなかだけの話ではない。職場にも「既婚者のほうが落ち着いている」という、誰も口にしないが確かにある空気が漂っていたりする。営業や管理職だと、取引先から「ご家庭は?」と聞かれる場面もある。
ある40代の男性は、昇進のたびに既婚の同期が先に上がっていくのを見て、自分に何か足りないのかと焦った、と話していた。直接そう言われたわけではない。それでも刺さる。家庭の有無と仕事の力量は、本来まったく別の軸のはずなのに。職場の空気に飲まれて自分を安く見積もる前に、その評価軸のほうを疑っていい。
「友情結婚」を選ぶ人が、静かに増えている
そういう流れのなかで、ひとつの選択肢になっているのが友情結婚だ。恋愛感情を前提にせず、価値観や生活設計をすり合わせてパートナーシップを組む。
選ぶ理由は人それぞれで、アセクシャルで恋愛結婚が難しい、同性のパートナーはいるが法的に結婚できない、恋愛そのものには興味はないが一緒に生きる相手はほしい。共通しているのは「恋愛だけが結婚の入口じゃない」というだけのことだ。友情結婚専門の結婚相談所のデータでも、希望者の動機には「親を安心させたい」「社会的な信用がほしい」がよく並ぶらしい。逃げと呼ぶ人もいるが、自分で選び直しているだけだと思う。選択肢を整理したい30代後半の人は、恋愛だけが正解じゃない結婚のかたちもあわせてどうぞ。
ただし、結婚しても圧は終わらない
ここは正直に書いておく。友情結婚は万能薬ではない。籍を入れたら入れたで、今度は「子どもはまだ?」が始まる。圧の中身が次のステージに移るだけ、という面は普通にある。
だからプレッシャーから逃げる手段として結婚だけ先に決めるのは、おすすめしない。友情結婚でも、相手との関係を育てる手間はかかる。子どもを望むかどうかも早めに考えておきたいテーマで、希望するなら年齢は物理的な制約になるし、待っている間のコストは年齢が上がるほど重くなる。アプリ登録から対面、関係づくり、入籍まで最短でも半年〜1年はかかる前提で逆算しておいたほうがいい。もちろん、持たない人生もまっとうな選択だ。
親への説明は、たぶん一番の難所になる。「恋愛じゃない結婚」を一発で理解してもらえるとは限らない。全部正直に話す人もいれば、「恋愛結婚と同じだよ」で流している人もいて、どちらでもいい。具体的な切り出し方は友情結婚を親にどう伝えるかにまとめてある。
受け流しの、実務的な話
プレッシャーをかけてくる相手と正面から議論しても、たいてい両者とも消耗して終わる。価値観を説得で書き換えるのは、ほぼ無理だと思っておいたほうがいい。「考えてるよ」「そのうちね」で流すのは、立派な処世術だ。
それと、同じ立場の人と少し話すと、自分だけじゃなかったとわかって楽になることがある。孤独が、この手の圧をいちばん重くする。あとは、自分で自分に言っている「この年で独身なんて」が、本当に自分の声なのか一度疑ってみるくらい。たいていは周りの物差しを借りているだけだったりする。
結婚するかどうか、いつ、誰と。これは人生で何度でも考え直していい話で、今この場で結論を出す義務はない。当たり前なんだけど、親戚一同に囲まれた正月の食卓だと、その当たり前がやけに遠く感じる。まあ、皿を下げるふりして台所に5分逃げるくらいの余白は、確保しておいていい。
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