条件のすり合わせで三往復、子どもの希望で一往復、親への説明の仕方でまた一往復。やっと会えそうだと思ったら、既読のまま止まる。
友情結婚の相手を探しているゲイ男性から、こういう話をよく聞きます。女性と生活の設計図を一から作っていく作業は、想像していたよりずっと体力を使う。気づけばアプリを開くのが週末だけになり、そのうち月に一度になって「なんで結婚したかったんだっけ」と手が止まる。
今回は、そこで一度立ち止まった人に向けた記事です。同性カップルの住まい探しを専門にしている不動産サービス「ぼくらのすまい」とコラボして、結婚という形にこだわらず、同性のパートナーと一緒に暮らすという選択肢を掘り下げてみました。
「結婚したい」の中身を分けてみる
婚活に疲れたときは、結婚に何を求めていたのかを一度バラしてみると整理しやすくなります。
親を安心させたい、職場で「結婚は?」と聞かれなくなりたい、子どもがほしい。こういう理由が中心にあるなら、女性との友情結婚はいまも筋のいい選択肢です。とくに子どもを考えているなら、年齢は物理的な制約になります。マッチングしてから入籍まで最短でも半年から一年はかかるので、疲れて休むにしても、休む期間をあらかじめ決めておくほうが後悔が少ないはずです。
一方で、よくよく考えてみたら「帰ったら誰かがいる家に住みたい」「週末に一緒に料理したい」「年を取っても一人で暮らすのはさみしい」が本音だった、という人も少なくありません。それなら、相手が女性である必要も、婚姻届を出す必要もない。好きな人でも、気の合う友人でも、同性のパートナーと暮らせばいいわけです。
もう一つ。誰かと暮らすことは、どちらかが相手を支えるための仕組みではありません。家賃も家事も対等に分けて、お互いが自立したまま同じ家に帰ってくる。この前提がないと、相手が恋人でも友人でも長続きしません。
「夫婦として借りられる」という、気づかれにくい楽さ
今回コラボした「ぼくらのすまい」を運営しているのは、東京で不動産の仕事をしている宅地建物取引士のDAIさん。ゲイの当事者で、同性カップルの住まい探しを専門にしています。そしてDAIさん自身、かつて友情結婚をしていた時期があります。
部屋探しの話を聞かせてもらう途中で、思いがけない答えが返ってきました。
友情結婚をしていた頃、DAIさんは不動産会社に夫婦として行っていました。だから物件探しでも入居審査でも、困ることはなかったそうです。同性カップルの住まい探しを仕事にしているいまの視点から見ると、ここに見過ごされやすい差があります。
もっとも、夫婦として借りられれば万事解決というわけでもありませんでした。DAIさん夫婦は「お互いの個室があること」を絶対条件にしていたので、2LDKを中心に探すことになります。それなりの広さが要るぶん、希望に合う物件を見つけるのは思ったより大変で、最終的に広めの木造アパートで妥協しました。
これが失敗だったといいます。隣にある妻の部屋の音まで聞こえてきて、それが気になることがあったそうです。個室を二つ確保するところまでは正しかったのに、広さを優先して建物の構造を後回しにしたぶんが、そのまま生活の居心地に返ってきた形でした。二人で住む部屋を探すときは、間取りの数字だけでなく、壁や床がどうできているかまで内見で確かめておくほうがいいという話です。間取りや生活ルールの詰め方は友情結婚の住居選びの記事にまとめてあるので、二人暮らしを始める前に読んでおくと迷いが減ると思います。
ここまでは、夫婦として部屋を借りられた人の話です。婚活に疲れて同性のパートナーと暮らす道を選ぶと、その前提そのものが変わります。手放すものがある。それが、不動産屋のカウンターで関係を説明しなくていいという楽さです。
「同性のパートナーと探す場合は、二人の関係性を伝えなければならない場面があります。初対面の担当者に自分たちのことを説明すること自体に、気まずさや抵抗を感じる人もいると思います」
いちばん高い壁は「部屋を借りること」
ただ、同性のパートナーと二人で住もうとすると、最初にぶつかるのが部屋探しです。
一般社団法人住宅みらい会議が2025年5月に実施した調査では、全国の不動産管理会社や仲介業者から665件の回答が集まりました。このうち同性カップルの入居可否を判断できる立場にある担当者318人に絞って見ると、すべての物件で入居を認めている業者は30.2パーセント、逆にすべての物件で断っている業者が12.6パーセント。残りの多くは、パートナーシップ証明書がある場合のみ認める、ルームシェア可の物件に限って認めるといった条件付きでした。東京新聞が、パートナーシップ制度の導入から10年を振り返る記事でこの数字を報じています。
現場で物件を当たっているDAIさんの体感は、少し違う角度から出てきました。「二人入居可」と書かれた物件のうち、実際に同性カップルで入居できたのは30から40パーセントくらいという印象だそうです。
この二つの数字は矛盾していません。業者の入口で門前払いされるのは1割強なのに、物件の単位で当たっていくと通るのは3割から4割まで下がる。つまり業者が受け付けてくれても、その先で貸主が首を縦に振らない。壁は二段あります。断られる理由として多いのは、貸主や管理会社が入居後のトラブルを心配しているケースだといいます。
やっかいなのは、この壁が物件情報からは見えないところです。「二人入居可」と書いてあっても、それが夫婦や家族を想定したものなのか、同性カップルや友人同士も含むのかは、管理会社や大家さんに聞いてみるまでわかりません。内見の日程まで決めてから「ルームシェアは不可でした」と言われると、けっこうこたえます。
では、どこを狙えば通りやすいのか。ここも聞いてみたのですが、答えは「読めない」でした。東京の中でのエリアによる違いはそこまで大きくないし、大手の管理会社だから通りやすい、個人の大家さんだから難しいという明確な傾向も感じないそうです。ネットで見かける「この辺は理解がある」といった話をあてにして絞り込んでも、あまり意味がありません。物件ごとに確認していくしかない、というのが現場から返ってきた答えでした。
暗い話ばかりでもなくて、断られる割合はここ数年で少しずつ減ってきているというのがDAIさんの実感です。社会的な認知が広がってきたぶん、同性カップルでも相談できる物件は確実に増えてきています。
当事者の宅建士に最初から相談する
関係性の説明と、通るかどうかわからない物件への問い合わせ。この二つの負担を最初から引き受けてくれるのが、今回のコラボ相手である「ぼくらのすまい」です。
進め方はシンプルです。エリアや家賃、間取りなどの希望を聞いたうえで、「二人入居可」の表示だけで判断せず、同性カップルでの入居について管理会社へ個別に確認します。必要であれば交渉もしたうえで、安心して検討できる物件を中心に案内してくれます。最初の相談から物件探し、内見、申し込み、契約まで、原則として同じ担当者が一貫して対応するので、関係性の説明を何度も繰り返さずに済みます。
申し込み書類まで進んだとき、続柄の欄をどう書けばいいのか迷う人は多いと思います。ここは「その他」か「同居人」で問題ないそうです。事前に管理会社へ同性カップルでの入居だと伝えて話を通してあるので、書類の上でどう見せるかを工夫する必要がない。先に確認してあるかどうかが、こんなところにも効いてきます。
DAIさんが顔写真を公開していないのは、周囲のすべての人にカミングアウトしているわけではないからだそうです。相談する側と地続きの場所に立っている人です。管理会社や貸主に確認が必要な場合も、どんな内容を伝えるのかを事前に説明しながら進める方針をとっています。
対応エリアは東京都内が中心で、千葉・神奈川・埼玉の一部にも対応。相談の窓口はLINEで、対面で話したい場合もLINEから申し込めます。希望条件が固まっていない段階でも、相談だけでも問題ないとのことです。
この記事を読んでいる人に効きそうなのが、一人でも相談できるという点。いまパートナーがいなくても、将来を見据えて住まいを考えたい段階で話を聞いてもらえます。婚活を休んでいる時期にこそ使いやすい窓口だと思います。
買うなら、名義とローンは最初に話す
賃貸で暮らしてみて、この人となら長く住めそうだと思ったら、購入を考えるカップルもいます。
同性パートナー同士でも、ペアローンや収入合算に対応する銀行は増えてきました。ただ、必要な書類は銀行ごとにけっこう違います。SBI新生銀行は、任意後見契約および合意契約に係る公正証書と登記事項証明書のコピー、または東京都渋谷区が発行するパートナーシップ証明書のコピーを求めています。他の自治体の証明書が使えるかどうかは明示されていません。たとえばauじぶん銀行は、申し込み画面でペアパートナーとの続柄に「その他」を選ぶ案内になっています。ただ、こうした受け皿が用意されているかどうかも含めて、続柄の書き方は銀行ごとにばらばらでそろっていないそうです。いずれも2026年9月時点の各行の案内で、条件も様式も変わりうるので、候補が固まった段階で直接確認してください。
見落としがちなのが名義の問題です。共有名義にすると、別れたときや、どちらかが亡くなったときの整理が複雑になります。法律上の夫婦ではないので、何もしなければ相続で相手に家が渡らないこともある。ぼくらのすまいでは賃貸だけでなく住宅購入の相談も受けていて、資金計画、単独名義と共有名義の違い、住宅ローン、将来の名義整理までまとめて説明してもらえます。
一緒に住む前に決めておきたいこと
部屋が決まる前に、二人で話しておくとあとが楽になることがいくつかあります。
- 家賃と生活費の分け方(きっちり折半か、収入に合わせるか)
- 契約の名義を誰にするか
- それぞれの個室を確保するか、寝室は共有か
- 親や職場に二人の関係をどう説明するか
- どちらかが出ていくことになったとき、どう片付けるか
最後の一つは縁起でもないと思うかもしれません。でも、出口を決めておくと、かえって関係が安定します。更新のタイミングで一度話し合う、と決めておくだけでも十分です。
制度は、まだ追いついていない
日本ではまだ同性婚が認められていません。全国で起こされた6件の同性婚訴訟は2026年3月に最高裁の大法廷へ回付され、統一的な判断を待っている段階です。
いまのところ、二人の関係を形にする手段は、自治体のパートナーシップ制度や公正証書が中心です。婚姻と同じ効力があるわけではありませんが、部屋探しやローンの場面では、これがあるかないかで話の進みやすさが変わります。
東京都の場合は東京都パートナーシップ宣誓制度が令和4年11月に始まっていて、令和8年8月末までに2,308組が受理証明書の交付を受けています。日常の手続きが進めやすくなるほか、都営住宅への入居申し込みができるようになるので、住まいを考えるなら早めに調べておく価値があります。
疲れたら、住む場所から考えてみる
友情結婚が合う人もいれば、同性のパートナーと暮らすほうが肩の力が抜ける人もいます。どちらかが正解というわけではなく、自分が毎日どんな家に帰りたいかで決めていい話です。
ただ、ここまで見てきたとおり、同性のパートナーと住む部屋を借りるのは、まだ運任せのところが残っています。「二人入居可」の物件でも通るのは3割から4割で、どこが通りやすいかは事前には読めない。物件を一件ずつ確認してくれる人がいるかどうかで、かかる時間も消耗も変わってきます。
婚活アプリを閉じて、物件サイトを眺めてみる。それだけでも「こういう暮らしがしたかったんだ」と見えてくるものがあります。二人で住める部屋を探すところから始めてみたいなら、あるいはまだ一人でこの先を考えている段階でも、事情をわかっている人に最初から相談するのがいちばんの近道です。