条件はすり合わせた。家事の分担も、お互いの恋愛をどう扱うかも、親への説明の仕方も決めた。週に一度会って話すたびに、この人となら大丈夫だと思えた。そして入籍した。
半年後、彼は家にいるのがしんどくなっていました。
東京で不動産の仕事をしている宅地建物取引士のDAIさんは、同性カップルの住まい探しを専門にしたぼくらのすまいを運営しています。ゲイの当事者で、そしてかつて、女性と友情結婚をして離婚した経験があります。別の記事で部屋探しの話を聞かせてもらったとき、当時のことも話してくれました。うまくいかなかった原因が、思っていたのと違うところにあったという話です。
動機は、世間体と子ども、それと小さな嘘
友情結婚を選んだ理由として大きかったのは、世間体と、子どもがほしかったこと。ここまではよく聞く動機です。
もう一つ挙げてくれたのが、職場などで自分のことについて小さな嘘を積み重ねていくのが辛かった、というものでした。週末に何をしていたか、誰と出かけたか。ひとつひとつは大したことのない受け答えなのに、それが何年も続くと重さが変わってきます。結婚すれば、そこから少し楽になれるのではないか。そういう気持ちもあったといいます。
この動機自体は、間違っていたわけではありません。実際、結婚したことで説明が要らなくなった場面はあったはずです。つまずいたのは、その先でした。
週に一度会うのと、毎日暮らすのは別物だった
入籍前のやり取りは、おおむね順調だったそうです。条件も価値観も詰めたし、会って話すたびに手応えがあった。
ところが暮らし始めてみると、週に一度会うことと、毎日一緒に生活することはまったく別物でした。
「暮らし始めてから、相手がかなりの潔癖症だとわかったんです。その生活スタイルに合わせるのが、自分にはきつかった」
これは性格が悪いという話ではありません。掃除の頻度、物を置く場所、洗い物をいつ片づけるか。デートの席では話題にすらならない部分が、同じ家にいると毎日ぶつかってきます。しかも、どちらかが間違っているわけではないので、決着もつかない。
条件のすり合わせで見えるのは、二人が言葉にできる部分だけです。言葉にしていない習慣のほうが、生活では面積が大きい。ここが、入籍前の面談では埋まらない穴でした。
先に一緒に住んでいれば、たぶん違った
振り返ってどうすればよかったと思うか、と聞いたときの答えははっきりしていました。いきなり結婚生活を始めるのではなく、まず同棲してみて、一緒に暮らしていけるのかをお互いに確認したほうがよかった、と。
順番の問題です。条件を詰める、会って確かめる、入籍する、一緒に暮らす。この最後の二つを入れ替えるだけで、結果はかなり変わったはずだという話でした。
一緒に住んでみて合わなければ、そこで解消すればいい。婚姻届を出す前なら、手続きも気持ちの整理も比べものにならないくらい軽く済みます。逆に住んでみて大丈夫だったなら、そのあとの結婚生活で「こんなはずじゃなかった」が出てくる余地はかなり減ります。
試す期間を決めておくのも大切で、なんとなく続けていると判断が先送りになります。一か月から三か月くらいで一度立ち止まる、と先に決めておくくらいがちょうどいいはずです。子どもを希望しているなら、ここも計算に入れる必要があります。年齢は物理的な制約になるので、お試しの期間も含めて逆算しておくほうが、あとで焦らずに済みます。
どんな間取りにするか、生活ルールをどう決めるかは友情結婚の住居選びの記事にまとめてあります。お試しで住む部屋を探す段階から使える内容なので、あわせて読んでみてください。
話し合いが止まると、どちらかが無理をし続ける
いま友情結婚で消耗している人に何を伝えたいか、と聞いたときの答えがこれでした。
「長く続けていくには、お互いに妥協できるところを探しながら、きちんと話し合いを続けることだと思います。話し合ったり理解し合ったりができなくなると、どうしてもどちらか一方が無理をし続けることになる。そうなると続けるのは難しい」
友情結婚は、恋愛感情でつながっている関係ではありません。だから、我慢でバランスを取ろうとすると、我慢している側にそれを続ける理由がなくなります。恋愛結婚なら感情が埋めてくれるかもしれない部分を、友情結婚では話し合いで埋めるしかない。そういう構造です。
片方が黙って合わせている状態は、うまくいっているのではなく、限界が来るのが遅れているだけだと考えたほうが近いと思います。
もしいまその状態なら、無理に今の形を続けるだけではなく、別の道を進むことも選択肢に入れていい、とDAIさんは言っていました。
離婚してすぐは絶望的だった
最後に、離婚したあとのことも話してくれました。
直後はかなり絶望的な気持ちになったそうです。世間体のために始めたはずの結婚が終わって、職場での説明もまた振り出しに戻る。子どものことも遠のく。失ったものを数えれば、いくらでも数えられる状況でした。
それでも、時間が経つにつれて少しずつ気持ちは変わっていきました。いまは、当時よりも幸せだと感じているそうです。
友情結婚がうまくいかなかったことと、その人の人生がうまくいかないことは、別の話です。合わなかったという事実が残るだけで、次に選べる形はいくつもあります。DAIさんの場合は、いま同性カップルの住まい探しという仕事に行き着きました。婚活に疲れて別の道を考えている人に向けて、同性のパートナーと暮らす部屋探しの話も別の記事にまとめています。
順番を一つ入れ替えるだけでいい
友情結婚そのものを否定する話ではありません。条件を詰めることも、会って確かめることも、必要な手順です。
ただ、その最後に「一緒に暮らしてみる」を足すかどうかで、見えるものがまるで変わります。週に一度会って決めた相性は、毎日の生活では通用しないことがある。それを入籍の前に知るか、あとで知るかという違いです。
入籍を急ぐ理由が特にないなら、先に一度、同じ家で暮らしてみてもいいと思います。
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