このブログには「それぞれの終わり始まり」というシリーズがある。
ケース1は、4か月で離婚したゲイの男性とアセクシャルの女性の話だった。
ケース2は、結婚7年目をむかえたレズビアンの女性とゲイの男性の話で、ふたりは結婚の前に婚前契約書を作っていた。
続いている理由をひとつに絞ることはできない。
それでも二本を並べて読むと、紙の上で話し合った時間の量が、ずいぶん違うように見える。
ケース2のふたりは、毎年結婚記念日のころに契約書を読み返しているという。
片方があとから子どもを望むようになったら改めて話し合う、という条項まで入れてあった。
僕が気になったのは、条項の中身より、その一行を書くまでにふたりが交わしたはずの会話のほうだ。
二種類の「契約」
婚前契約と言うとき、日本では二つのものが混ざりやすい。
一つは、民法に定められた「夫婦財産契約」。
婚姻届を出す前に、結婚後の財産をどう管理するかを決めて登記する制度で、婚姻後は原則として変えられない。
手続きが重く、知っている人も少ないので、実際に使っている人はほとんどいない。
もう一つが、ふたりの間で自由に取り決めて文書にする「婚前契約書」だ。
英語ではプレナップ(Prenuptial Agreement)と呼ばれる。
友情結婚で話題になるのは、たいていこちらになる。
何を書くのか
取材で会ったミナさん(アセクシャル・30代)とコウさん(ゲイ・30代)は、婚姻届を出す二か月前、ミナさんの部屋のダイニングテーブルで契約書の下書きをしていた。
ノートには、話し合う項目が鉛筆で並んでいた。
- 結婚前からの財産(特有財産)と、結婚後に二人で築く財産の分け方
- 生活費の負担割合、大きな買い物の決め方
- 住む部屋の間取り、個室の使い方、家事の分担
- パートナー以外との恋愛関係をどこまで認めるか
- 子どもを持つかどうか、養子縁組の可能性
- 親族との付き合い方、親の介護が必要になったときのこと
- 離婚を考えるときの条件、財産の分け方、慰謝料の有無
いちばん長く止まっていたのは、外の恋愛関係の行だった。
コウさんには、当時つき合っている人がいた。
「家には連れてこない」で合意しかけたところで、ミナさんが「じゃあ、泊まりは何日まで?」と聞いた。
コウさんはしばらく黙って、それから笑った。
「そこまで決めるの」。
決めた。
月に二泊まで、前の週に伝える。
項目を見ると冷たいリストに見える。
でも実際の下書きの場面は、こういう小さな沈黙の積み重ねだった。
曖昧にしておけば楽な行ほど、あとで相手を傷つける行になるのだろうと思う。





