去年の10月、うちに猫がやってきました。
日曜日の午後、パートナーと二人で保護猫の譲渡会に行ったんです。会場は区民センターの2階で、外は秋晴れでした。ケージがずらっと並んでいて、子猫が鳴いている声が響いてました。そのなかの一匹、キジトラの男の子が、ケージの奥からこっちをじっと見てたんです。
気がついたら、譲渡の申し込みをしてました。
名前は「むぎ」にしました。パートナーが「麦茶みたいな色だね」と言ったのがきっかけです。帰り道、二人で「むぎ」「むぎ」と何回も呼んでみて、しっくりくるねって話してました。
わたしたちは友情結婚3年目の夫婦で、都内の2LDKで暮らしてます。恋愛感情のないパートナーシップだからこそ、日常のなかに共通の話題があるってけっこう大きいんですよね。むぎが来てから、わたしたちの関係はすこしずつ、でもたしかに変わりました。
猫がいるだけで会話が増えた
友情結婚の生活って、お互いを尊重しているぶん、ちょっと距離感ができやすいところがあるんです。仕事から帰ってきて、「おかえり」「ただいま」のあと、それぞれの部屋に引っ込む日もけっこうありました。べつにそれが嫌だったわけじゃないんですけど、なんとなく「今日、パートナーとほとんど話してないな」と思う夜はあったんです。
むぎが来てからはだいぶ変わりました。「むぎ、今日ずっとキッチンの椅子の上にいたよ」とか、「さっきすごい勢いで走り回ってた」とか。ほんとうにどうでもいい話なんですけど、自然と会話が生まれるようになった。夜の9時すぎ、リビングでむぎを眺めながらぼんやりほうじ茶を飲む時間が増えました。エアコンの音と、むぎのごろごろいう音だけが聞こえる。あの時間がわたしはけっこう好きです。
友情結婚って、恋愛のどきどきがない代わりに、日常をどう一緒に過ごすかが関係の土台になると思ってます。ペットはその日常に、ちいさなイベントをたくさん持ち込んでくれる存在でした。
「一緒に世話をする」という新しい役割
むぎのお世話は、なんとなく自然に役割分担が決まっていきました。朝ごはんはわたしが早起きなのでわたしの担当。目覚ましが鳴る前に、むぎがわたしの枕元に来て顔をぺたぺた触ってくるんです。6時15分くらい。正確です。夜ごはんはパートナーが帰宅後にあげる。トイレ掃除は気づいたほうがやる、みたいなゆるいルールです。
おもしろいなと思ったのは、ペットの世話を通じて家事全体の分担もスムーズに回るようになったこと。「むぎのフードがなくなりそうだから、買い物ついでにトイレの砂も買ってきてくれない?」みたいなやり取りから、「あ、牛乳も切れてたよ」と日用品の話に広がったり。ちょっとしたことなんですけど、生活を一緒に回している感覚が前より強くなった気がします。
友情結婚のパートナーとは恋愛感情で結ばれているわけではないぶん、こうした「一緒に何かを担う」という経験が関係性の厚みになるのかもしれないです。
飼う前に話し合っておいてよかったこと
ただ、ペットを飼うのは楽しいことばかりじゃないです。むぎを迎える前に、わたしたちはけっこう真剣に話し合いました。近所のファミレスで、ドリンクバーだけ頼んで2時間くらい。あの時間があったからこそ、今うまくいっているんだと思ってます。
まずお金のこと。毎月のフード代、トイレ用品、定期的なワクチンや健康診断、ペット保険。ざっくり計算して、月に1万5千円くらいは猫にかかると見積もりました。急な病気やけがも想定して、猫用の貯金として月5千円ずつ積み立てることに。費用の分担は最初にはっきり決めておいて、うちの場合は完全に折半です。
世話の分担についても方針を共有しました。がっちりルールを決めたというよりは、「基本はこういう感じで、あとは柔軟にやろう」という方向性。ただ、どちらかが出張や体調不良で世話ができないときのことは事前に話し合っておいたほうがいいです。うちはパートナーが月に1〜2回出張があるので、そのあいだはわたしがワンオペになる。それが負担にならないか、正直に確認し合いました。
もし関係が終わったら、むぎはどうするか
友情結婚に限った話ではないんですけど、ペットを飼うなら「もし別れることになったら、この子はどうするか」は避けて通れない話題です。
わたしたちもむぎを迎える前にこの話をしました。正直ちょっと気まずかったです。まだ関係がうまくいっているのに、別れたあとの話をするのって。ファミレスの窓から見える駐車場をぼんやり眺めながら、しばらく沈黙がありました。
でも、あとから揉めるよりはずっといい。
話し合った結果、「基本的にはメインで世話をしているほう、つまりわたしが引き取る。ただしそのときの住環境やお互いの状況を見て、改めて相談する」という方針になりました。完璧な正解があるわけじゃないんですけど、こういうことを感情的にならずに話し合えるのは友情結婚ならではかもしれないです。
知り合いのカップルで、友情結婚をしていた方がいるんですが(※プライバシー保護のため一部フェイクを含みます)、お二人は犬を飼っていたそうです。残念ながらその後パートナーシップを解消することになったのですが、事前に取り決めをしていなかったために犬の引き取りでかなり揉めてしまったと聞きました。どちらも犬に愛着があったからこそ、感情的になってしまったそうです。
ペットが「家族」の形をつくってくれる
友情結婚をしていると、ときどき「わたしたちって家族なのかな」とふと考えることがあるんです。恋愛感情はないし、世間一般のイメージする夫婦とはちょっと違う。それ自体は気にしてないんですけど、なんとなくそういう問いが浮かぶ瞬間はあるんですよね。
むぎが来てから、その感覚がすこし変わりました。
きのうの夜、二人でむぎの寝顔を見てたんです。リビングのラグの上でおなかを出して寝てました。パートナーが小さい声で「今日もよく寝てるね」と言って、わたしは「うん」とだけ返しました。エアコンの音がして、外から電車の走る音がかすかに聞こえて。あ、ちゃんと家族してるな、と思ったんです。恋愛とか関係なく、一緒に暮らして、一緒に誰かの世話をして、くだらないことで笑い合う。それってもう家族なんじゃないかなと。
今のところ、わたしはこうしてます。毎朝6時15分にむぎに起こされて、フードをあげて、パートナーが淹れてくれたコーヒーを飲む。それがわたしたちの日常です。ペットを飼うことが友情結婚に必須だとは思わないんですけど、もしパートナーと「ペットいいかもね」という話が出ているなら、一度じっくり話し合ってみるのもいいんじゃないかなと思ってます。




